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美術解剖学 #3 胴体・背面の層

#ArtisticAnatomy#Drawing#Art
美術解剖学 #3 胴体・背面の層

このノートでは背部の主要な筋肉の構造と、その層の重なりを扱います。参考資料は引き続き Uldis Zarins ほか『Anatomy for Sculptors』です。

使用する骨格は下図のとおりです。肋骨や椎骨の具体的な分布と本数は主要な筋肉を覚えるうえであまり役に立たず、よほど硬派な作画要求でもないかぎり使いどころがないため、このノートでは胸郭と脊柱を簡略な形で表しています。

背面は正面より描くのが難しい。理由は二つあります。第一に、肩甲骨は動くこと。胸郭のような固定されたランドマークではありません。第二に層が多いこと。僧帽筋と広背筋がほぼすべての深層筋を覆いますが、完全に覆うわけではなく、露出している部分こそが背中の造形を決めます。

層の順序

深い側から浅い側へ。

  1. 骨に接する層 —— 前鋸筋、外腹斜筋(側面から回り込む部分)、脊柱起立筋。
  2. 肩甲層 —— 棘下筋、小円筋、大円筋、菱形筋。肩甲骨と上腕骨をつなぎます。
  3. 覆う層 —— 広背筋。腰から腋窩へ向かって包み上げます。
  4. 外側の層 —— 僧帽筋、三角筋後部。

要は第 2 層です。菱形筋は僧帽筋に完全に覆われますが、棘下筋と大小円筋は部分的にしか覆われません。そこで露出する部分が、肩甲骨の外下方にできるあの有名な隆起です。

前鋸筋

図のとおり、背面から見るとほぼ肩甲骨の下に隠れており、起伏は側面から観察できます。痩せた人や筋肉の発達した人では、側面の体表に明瞭な鋸歯状の前鋸筋が見えます。

押さえておきたいのは、前鋸筋が肩甲骨の内側縁に停止する点です。肩甲骨を胸郭に引きつけて保持している筋肉なのです。これが働かなくなると肩甲骨は浮き上がります(翼状肩甲)。したがって内側縁をわずかに背面から浮かせて描くことは、弛緩した、あるいは病んだ人物を表現する有効な手立てになります。

外腹斜筋

外腹斜筋は肋骨の後方から起こるため、背面からもその一部が見えます。

背面では、広背筋の下縁と腸骨稜のあいだの小さな三角の領域に現れます。この領域と、脊柱起立筋が腰に作る二本の縦の隆起が合わさって、腰背移行部の形を作ります。いわゆる腰のえくぼもこのあたりです。

脊柱起立筋

脊柱起立筋は脊柱の両側を縦に、仙骨から頸部まで走ります。背部で唯一の主要な縦走筋群で、ほかはすべて斜めか横に走ります。

描くうえで重要なのは、その区分(腸肋筋・最長筋・棘筋)ではなく、全体としての効果です。脊柱は隆起ではなく溝であるということ。その両側の隆起が脊柱起立筋です。溝は腰でもっとも深く、上へ行くほど浅くなり、肩甲骨のあいだでは僧帽筋に覆われます。

脊柱を盛り上がった線として描くのは、初学者にもっとも多い誤りです。極端に痩せているか前屈していないかぎり、背中の中心は常に溝です。

菱形筋

菱形筋は脊柱と肩甲骨の内側縁をつなぎ、二枚の肩甲骨を互いに引き寄せます。

僧帽筋に完全に覆われ、体表に現れることはありません。それでも肩甲骨内側縁の位置を決めているのはこの筋です。肩をすくめる、胸を張るという動作は菱形筋の仕事です。描く必要はありませんが、内側縁の線はポーズによって動き、固定されていないことは知っておく必要があります。

棘下筋

棘下筋は肩甲棘の下にあり、それが名前の由来です。

起始:肩甲棘より下の肩甲骨背面 停止:上腕骨大結節の中央部

上部は僧帽筋に、外側は三角筋後部に覆われるため、見えるのは中央からやや下寄りの菱形の領域です。筋肉質な人物では、この領域が大円筋・小円筋とともに、肩甲骨の外下方に明瞭な塊を作ります。

大円筋と小円筋

大円筋も小円筋も肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉で、層の関係は下図のとおりです。それぞれが上腕骨に接続する位置に注意してください。実際には棘下筋と三角筋に覆われるため小円筋は体表で観察しにくいのですが、特定の角度からははっきり見えます。

具体的には次のとおりです。

  • 小円筋は肩甲骨外側縁の中央あたりから起こり、上腕骨大結節の下部に停止します。棘下筋と同じ側に着きます。
  • 大円筋は肩甲骨下角から起こり、上腕骨の前へ回り込んで結節間溝の近くに停止します。

つまり大円筋と[棘下筋+小円筋]が、上腕骨を反対側から挟んでいます。この挟みこみが腋窩後縁を描く鍵です。腕を上げると、大円筋と広背筋が一緒に腋窩の厚い後壁を作ります。

三つ合わせて、肩甲骨の外下方にひとつの塊を作ります。背中を描くときは、まずこの塊をひとつの体積としてブロックし、そのあとで三つに分けるとうまくいきます。

広背筋

広背筋は背部で最大の単一筋であり、外形のシルエットを主に決めています。

起始:下位胸椎・腰椎・仙骨・腸骨稜(大きな腱膜を介して) 停止:上腕骨の前面、結節間溝

要点は次のとおり。

  1. 下から上へ、後ろから前へ包みます。下端は非常に幅広く腰のほぼ全体にまたがり、上へ行くにつれ狭まり、体側を回り込み、最後は細い帯にねじれて腋窩へ入っていきます。このねじれが形としてもっとも難しい部分です。
  2. 前鋸筋の下半、外腹斜筋の上部、そして肩甲骨下角の周辺を覆います。
  3. 上縁と僧帽筋の下縁のあいだに三角形の領域が露出し、そこから肩甲骨下角と大円筋が見えます。痩せた人物ではこの三角がはっきりしており、背中の構造が正しく取れているかを確かめる良い指標になります。
  4. 外縁は腋窩から体側を斜めに下る辺を作ります。この辺と三角筋を合わせたものが、逆三角形の輪郭です。

僧帽筋

僧帽筋はすべての上にかぶさるマントで、頭蓋底から下位胸椎まで広がります。

起始:後頭骨、項靱帯、頸椎および胸椎の棘突起(体表で見えるランドマークである C7 の位置に注意) 停止:鎖骨の外側 1/3、肩峰、肩甲棘

三つの部分は走行の向きがまったく異なります。

  • 上部は首から外下方へ斜めに下り、鎖骨に着きます。首と肩のあいだの傾斜を決める部分で、その角度が人物を力強く見せるか華奢に見せるかをもっとも直接的に左右します。
  • 中部はほぼ水平に走り、肩峰と肩甲棘に着きます。
  • 下部は胸椎から外上方へ斜めに上り、肩甲棘の内端に収束して、背の中央に下向きの尖りを作ります。

長さに注意してください。その下向きの尖りは腰ではなく、胸椎の中下部、おおよそ肩甲骨下角より少し下あたりにあります。長く描きすぎると人物から腰がなくなります。

三角筋後部

三角筋後部は肩甲棘の下縁から起こり、上腕骨外側に停止します。背面から見ると、棘下筋・小円筋とのあいだに明瞭な境界があります。

背中と腕の移行部にあたります。ありがちな失敗は棘下筋の塊と一体化させてしまうことです。あいだの溝は必ず残さなければ、肩と背中がひとつの形に癒着してしまいます。

まとめ

背面の覚え方はこうまとめられます。溝ひとつ、塊ひとつ、マント一枚、包みひとつ。

  • 溝ひとつ:脊柱の両側の脊柱起立筋。中心線は凹んでいる。
  • 塊ひとつ:肩甲骨の外下方の棘下筋と大小円筋。
  • マント一枚:僧帽筋。頭蓋底から下位胸椎まで。
  • 包みひとつ:広背筋。腰から腋窩へ。

この四つの関係を正しく取れれば背中は立ち上がります。残りはすべて、その上に乗る細部です。

次回は上肢へ移ります。

このシリーズの記事

美術解剖学
  1. 01美術解剖学 #1 胴体の概観
  2. 02美術解剖学 #2 胴体・正面の層
  3. 03美術解剖学 #3 胴体・背面の層
  4. 04美術解剖学 #4 上肢
  5. 05美術解剖学 #5 下肢